うつは思考力や記憶力や決断力の低下で能力が著しく低下する


うつ病の大きな症状の中でも、比較的認知度が低い症状が『思考の障害』です。
思考の障害は、うつの中でも早い段階から顕著にみられるのですが、その割にうつの症状だと気に留められないことが多いのです。

それよりも「抑うつ気分」や「落ち込み」、「やる気が出なくなる」といった感情の障害や意欲・行動の障害の方が『うつ』の症状として目立ってしまうようです。

しかし思考の障害というのは、うつ病の状態を悪化させる要因にもつながりかねない症状でもあるのです。

ここではうつ病の思考の障害について詳しく説明していきます。

スポンサードリンク

うつになると思考力や記憶力や決断力が低下してしまう

うつの『思考の障害』は人間の考える力を低下させその人のパフォーマンスを著しく低下させます。
ここで言う『考える力』と言うのは、単に思考力だけでなく、記憶力や決断力・判断力それに集中力や注意力などの総合的な考える力を指します。

具体的には、以下のような症状が見られるようになります。

考えるスピードが遅くなり、なかなか考えがまとまらない。

仕事に集中することができず、いつの間にか上の空になってしまうことが多くなる。

注意力が落ち、つまらないポカをすることが増える。

物覚えが悪くなり、聞いたことをすぐ忘れてしまったり、電話番号メモするのに何度も聞き直したり、大事な予定を覚えてなかったりする。

仕事の書類や新聞などを読んでも文字が頭の中に入っていかず書かれていることがなかなか理解できない。

人の話が頭に届かない。耳には聞こえているが、話の内容を理解できない。

簡単なことを決めるのもズルズルと悩んでしまい時間がかかってしまう。

このような状態になり、やる事を進められなくなったり間違いやミスが増えたりして、仕事や家事をする能力が著しく低下してしまうのです。

うつになるとこれまで出来ていた日常的な段取りや会話が難しくなる

このような思考の障害が強くなってくると、仕事や家事などの日常生活において様々な問題が起きてきます。

そのなかの一つのとして、段取りを考えることができなくなり、物事を順序だててやることが難しくなります。

これまで何度もやってきたことでさえ何をどういう順番でやったらいいか考えられなくなってしまうのです。
あるいは、やることがいくつもあると、どれから手をつけていいのかわからなくなり、いつまでも作業を始めた状態のまま時間が過ぎてしまうこともあります。

例えば、外出する際に目的地までの電車の乗り換えを調べたとしても、電車の発車時刻や何線に乗り換えればいいのか頭に入って来なかったり、目的の時間に着くための時間を逆算したりすることができなくなってしまうのです。

また人との会話も難しくなります。
人と会話をする際には、相手の言ったことを聞き取って、それを頭に記憶して、それに対する答えを考えなければいけません。
しかし思考の障害はこれら全ての能力を低下させますから会話をスムーズに進められなかったり、会話が噛み合わなくなってしまったりするのです。

思考の障害は脳の中でどんな状態?

思考の障害で頭が働かない状態を例えるなら、「部屋いっぱいに散らかっている友人の部屋をあなたが片付けなければいけないが、一体どこから手をつけていいかわからない」と途方に暮れているイメージです。

この散らかった部屋自体を脳の中と考えます。
途方に暮れているあなたも脳の一部です。

友人の家ですからどんなものが散らかっているのかはっきりわからない、どう片付けていいのかわからない、どれが要るものでどれが要らないものかわからない、そんな状況が脳の中で起きているのです。

それでも普通であれば端から片付けていくとか、まずゴミを集めるとか始めていけますが、途方にくれたまま固まってしまうのが思考の障害なのです。

うつの思考の障害は前頭前野が働かなくなることが原因

思考の障害は、脳の前頭前野という部分が正常に働かなくなることが原因と言われています。
前頭前野は他の動物と比べて人間が特に進化・発達している部位で、人間が他の動物より優れた知能や思考力を持つのも、人間が人間らしくあるのもこの前頭前野のおかげなのです。

そして、前頭前野の中でも特にワーキングメモリの働きが悪くなることが思考の障害の大きな要因と考えられています。
ワーキングメモリというのは、人間が物事を考える際に一時的に記憶しておく場所のことです。

例えば、相手が言った電話番号を自分のアドレス帳に登録する時、聞いてから登録し終わるまでの間一時的に覚えておくために使われます。

このワーキングメモリというのは、物事を考える時の作業スペースになるものですから、段取りを考えたり、会話をしたり、比較したり良し悪しを考えたりとあらゆる場面で使われます。
ですから、ワーキングメモリの働きが悪くなってこの作業スペースが狭くなってしまったら、一時的に記憶できる量が少なくなって『考える』ことが難しくなってしまうのは想像してもらえると思います。

スポンサードリンク

思考の障害がさらに希死念慮を強めてしまうこともある

このように、うつのために脳の前頭前野が正常に働かなくなることで、思考の障害が引き起こされるのですが、この思考の障害がさらに別の症状を強めてしまいます

思考の障害のせいで、仕事や家事など今まで普通にやれていたことが上手く出来なくなってしまいます。
これはうつの一つの症状に過ぎないのですが、本人は「自分は何も出来ず周りに迷惑をかけてしまうダメな人間になってしまったんだ」と考えてしまうのです。

うつになると、自分のことを否定的で悲観的に考えやすくなります
その状態で思考の障害により上手く出来ないことが出てくると、より一層自分のことを否定的に考えて「ダメな奴」という考えを強めてしまうのです。

そして、自己否定が強くなっていくと、やがて「自分なんて生きていても仕方がない」という希死念慮にもつながってしまうのです。

【参考】うつは自分に価値がないと感じさせ自分を責め悲観的になる

このように思考の障害と言うのは、もちろんそれだけでも重大な症状なのですが、自死への直接的な引き金にもなりかねないのです。

さいごに

うつの症状である思考の障害は、それ自体もこれまでできていた生活や仕事が上手くできなくなることを引き起こします。

しかしそれだけではなく、そのことが自分の状況を追い込み、うつをさらに悪化させる原因にもなってしまうのです。

そのような状況に追い込まれる前に一度専門医の診察を受けるべきです。今でできたことができなくなったのは脳の病気が原因なのですから、自分という人間を「ダメな奴だ」と否定する必要はなく病気を治していけばいいのです。
正確な診断を受けるためにも、精神科やメンタルクリニック、あるいは心療内科などの専門医で診察を受けてください。
スポンサードリンク