うつという病気も今はだいぶ一般的になっているように思われていますが、実情はまだまだ正確に知られているとは思えません。
症状についてや治療について、周りの人の接し方まで、誤った知識や偏見を持っている人がたくさんいます。
そもそもとして、うつのことを精神の病気、心の病気と考えている方が多いと思いますが、それは正しくありません。うつは脳の病気なのです。精神とか心とかの実体がはっきりしない抽象的な病気ではなく、脳という器官の病気なのです。
脳が正常に働かないことが、結果として精神面や心の問題、あるいは体の不調として現れるのです。
ここでは、このようにうつ病になり脳が正常に働かないことで出てくる症状について説明します。
【目次】
うつの症状の特徴と実際の症状の一覧
うつ病というと、落ち込む、抑うつ状態、ネガティブな考えをする、などがパッと思いつく症状でしょう。
これらもうつの症状の『気分の障害』という1つの側面ですが、これ以外にも様々な症状があります。
気分の障害
気分の障害は、「気分が晴れない」、「憂鬱な気持ちが続く」、「抑うつ気分」というように文字通り気分が落ち込み続ける障害です。具体的には以下のような症状があります。
- 落ち込んだ気分のまま
- ずっと気分が重い
- 強い不安感
- イライラする
- 孤独感・寂しい
- 悲しい
- 憂鬱
このような感情は、 大失恋や家族など親しい人との死別と言った強い悲しみを受けた時にも持つ感情ですが、うつの場合はいくら時間が経っても一向に収まらないどころかむしろひどくなっていきます。このような気分が2週間から1ヶ月の間ずっと続くようならうつ病が疑われます。
またうつ病の感情の障害には、身体的にではなく 精神的に「ツラい」感情がとめどなく溢れ出てくる症状もあります。このツラさを言葉で表すのは難しいのですが、あえて例えるなら、高熱で体がだるくてツラい感じです。また、人によっては強い疲労感と感じることもあります。実際には発熱もしていないし、激しい運動をしたわけでもないのですが、このようなツラさがあると感じてしまうのです。
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意欲や行動の障害
意欲や行動の障害は、意欲や気力が無くなり、何をしても楽しめなくなります。また、人間の基本的な欲求である食欲や性欲なども減退してしまいます。
意欲や気力が無くなると、
- 何もしたくない
- 何をするのも億劫
- 行動が遅い、なかなか動きだせない<
という状態になってしまい、ひどくなると本当に動けなくなります。頭では「あれをやらなきゃ、これをやらなきゃ」と思っても体が動こうとしない、体を動かすための指令が出て行かなくなってしまうのです。
また、何をしても楽しいと感じられなくなり、趣味など以前は楽しんでいたことですら楽しめなくなります。音楽を聴いてもテレビを観ても本を読んでも、雄大な自然の風景を見ても、心が動かなくなり感動もできなくなります。全てのことが無味乾燥に思えてしまい、余計に意欲や気力を失ってしまいます。
思考の障害
思考の障害はうつの比較的早い段階から見られる症状で、頭が働かなくなる・回らなくなります。具体的には以下のような症状があります。
- 集中力の低下
- 決断力・判断力が低下し、簡単なことも決められなくなる
- 物事を順序立ててやれなくなる、段取りが考えられなくなる(仕事や家事などが進まなくなる、電車の乗り換えがわからなくなる等)
- 今まで出来ていたことができなくなる、考えられなくなる(文章を読んでも頭に入らない、会話ができない、噛み合わない等)
- 考えるスピードが著しく遅くなる
- 記憶力が低下する(電話番号をメモする時など一時的に覚えておくことが出来なくなる)
このような症状のために、仕事や家事などを以前のように進めることができなくなってしまいます。
否定的・悲観的な認知
うつになると、自分のことを必要以上に否定的に考えたり悲観的に考えたりしてしまいます。
「自分はダメな人間で生きている価値が無い」と考えたり、「自分がいるせいで周りに迷惑をかけてしまっている」と強く自分の存在を否定してしまいます。人間誰しも過去に失敗や反省すべきことはあるものですが、なんとか折り合いをつけています。しかし、うつになると過度に気に病んでしまい自分のことを否定することばかり考えてしまいます。
また未来に対しても、「こんな自分がこのまま生きていてもいい事なんて何も無い」「このツラい状態はいつまでも治らない」と悲観的に考えてしまいます。
焦燥
理由もなく焦りを感じたり、ジリジリ・ソワソワした嫌な感じが続き、じっとしていられなくなります。そのせいで激しい貧乏ゆすりやウロウロと歩き回るなどの行動をしてしまいます。
このような行動は一見うつとは正反対に見えますが、実はこの焦りやジリジリ・ソワソワ感の根源は気分の障害の不安感なのです。この不安感が人によっては焦燥感として感じてしまい、これに耐えられずじっとしていられないのです。
また焦燥感にイライラして、周りに当たり散らしてしまうこともあります。
睡眠障害
睡眠障害はうつ病の代表的な症状の一つです。うつ病の人は何らかの睡眠に関する問題を抱えていると言われます。
睡眠障害は大きく分けて、なかなか眠ることができない入眠障害、寝ても眠りが浅くすぐに目が覚めてしまったり数時間で目が覚めてしまう中途覚醒・早朝覚醒、いつまででも眠ってしまう過眠があります。
特にうつの症状としてよく見られると言われているのが中途覚醒です。私も中途覚醒に悩まされています。睡眠薬を飲めば眠ることはできるのですが、数時間で眠りが浅くなり、大抵の場合嫌な夢を見て目が覚めてしまいます。そしてその後は浅い眠りしかできず1時間おきに目が覚めるのを繰り返しているうちに朝になってしまいます。
日内変動
うつ病の症状には日内変動がある場合が多く、その中でも朝が一番具合が悪い人が大半を占めます。この場合、昼ごろから徐々に上向きになって、夕方から夜になる頃には比較的調子が改善していきます。
朝は会社に行けないほどツラいのに夕方になると楽になってくると感じてしまうので、「会社に行きたくないためのサボり癖なのでは?」と思う人も多いです。しかしそんなことはなく、朝が一番ツラいのがうつの症状なのであり、朝の具合の悪さを症状の重さの基準と考えるべきなのです。
希死念慮
自ら死を選んでしまった人にうつ病の人が多いということは多くの人が知っていると思います。うつ病の症状に希死念慮(「死んでしまいたい」と思うこと)があり、希死念慮が強くなると実際の行動を起こしてしまうのです。
うつの人の中には、実際の行動に移すまでいかなくても、漠然と「死にたい」「消えたい」「死ねば楽になる」と考えている人は多くいるのです。
- 「自分なんて生きている価値がない」と考える否定的な認知から「消えてしまいまたい」と考えてしまう
- 今のツラく苦しい状況から逃れたいために「死ねば楽になる」と考えてしまう
積極的に行動を起こすのはためらいつつも、このような考えをしてしまうのです。特にうつになると心理的視野狭窄(心理的な視野が狭くなってしまい普段なら考えられることが考えられなくなる)もあり、他の解決方法が目に入らないし、考えられなくなります。思考力や判断力も低下しているので、「死んでしまった方がいい」と短絡的に考えてしまうのです。
希死念慮はうつという脳の病気が引き起こしてしまう誤った、そして極度に偏った考えなのです。
食欲・疲労感・妄想
この他、うつになると食欲が無くなる、あるいは逆に過食になることも多くあります。また食欲の変動だけでなく、何を食べても味がしないなどの味覚異常を起こす人もいます。
うつになると疲れやすく、また疲労感を強く感じるようになります。これは身体が実際に疲労しているというよりは、脳がすぐに疲弊してしまうことで疲労感を感じてしまうのです。
うつのせいで妄想を抱いてしまうこともあります。うつのせいで引き起こされるネガティブな考えが固定化してしまい、根拠もなく事実ではないことを本当のことだと信じてしまうのです。
うつは精神的な症状だけでなく身体的な症状もある
うつの症状というのは精神的なものだけではありません。身体的な不調として現れることも多いのです。脳は思考や精神的な働きだけでなく身体全体を管理・制御する部位です。またホルモンなどの体内物質の量のコントロールも行います。ですから、うつにより脳の働きが正常でなくなれば、身体に影響が出ることも何ら不思議ではないのです。
とは言え、実際に感じるのは身体的な不調ですから、通常は内科等で診察を受けてみることになります。しかし、うつのせいで出ている症状なので異常が見つからないのです。また、うつだけでなく、自律神経に問題があるケースもあります。
以下のような身体の不調を内科などで診察してもらっても、特に異常が見つからない場合は、一度診療内科やメンタルクリニックなどで診察を受けてみることをお勧めします。
- 痛み…頭、肩、背中、四肢関節などさまざまな部位が痛む
- 胃腸の調子が悪くなる(便秘や胃痛など)
- 心臓がドキドキする、動悸がする、息苦しい、窒息感を感じる
- 発汗
- 体がだるい
チェックリストによるセルフチェックだけで判断はすべきでない
今はインターネット上にうつをセルフチェックするためのチェックシートがたくさんあります。実際に医療機関で使われるチェックシートと 同じレベルのものもあるようです。
セルフチェックをして自分の状態をチェックするのはいいことだと思いますが、あくまでセルフチェックであることを忘れないでください。
セルフチェックの結果うつの可能性が高いならばもちろんのこと、うつの可能性が低かったとしても「何かおかしい」と感じることがあるならば専門医の診察を受けるべきです。
うつはガンのように病気そのものが心臓を停める病気ではありませんが、しかし死に至る可能性がある病気なのです。 風邪だと思って軽く見てはいけません。
さいごに
改めて、うつは脳の病気だということを強調しておきたいと思います。うつの様々な症状は脳の病気によって引き起こされるもので、決して『気の持ちよう』などでなんとかできるものではないのです。
まずはご自分自身が、うつは脳の病気ということをしっかり理解して 治療に専念して欲しいと思います。