友人が同棲している彼から暴力を受けている。いわゆるDVだと思う。私も含め友人たちが、「とっとと別れた方がいい」と言っているのだが、彼女は一向に別れようとしない。
なぜ彼女は、このひどい状況から抜け出そうとしないのか?
そんなあなたの心配な友人についてです。
DVから逃げようとしない理由
DVを受けている女性が暴力を振るう男性から逃げようとしない理由は、いくつもの心理的要因が重なっています。
相手に未練がある、逃げたことで仕返しされる恐怖、経済的な面で逃げられない、「自分が悪いから暴力を振るわれる」と言う思い込み、などがありますが1番大きい要因は『共依存』と言われています。
共依存について説明する前に、まず「なぜDVが起こるのか?」について説明します。
DVが起こる理由とDVのループ
DVの加害者になる人間は、独占欲がたいへん強く、異常なほどの嫉妬心があります。
そのため被害者である相手を失うことを非常に恐れ、相手がいなくなってしまうのではないかと言う猜疑心をいつも持っています。
つまり、実は相手を喪失することに対して怯えているのですが、これが逆に暴力的な行動として表れているのです。
相手を引き止めたいから暴力行為に走ってしまうのです。
動物が威嚇行動をとるのは怯えがあるからなのと同じように、相手に対して攻撃的になり、暴力で支配しようとしているのです。
これに、ストレスのはけ口として、暴力自体を快感に感じる心理も加わって暴力はエスカレートしていきます。
このように加害者が被害者に対して暴力を振るうのは、被害者に対して歪んだ愛情があり、被害者に強く依存しているのです。
ちなみに、DVの加害者に男性が多いのは男性ホルモンによる攻撃性が影響してると言われてます。
そしてDV加害者はいつもいつも暴力を振るうのではなく、以下の3つの状態を繰り返しています。
- 加害者のイライラが溜まる緊張状態
加害者は些細なことでもイライラが溜まっていき、言動が荒くなっていきます。そしてその結果、被害者の緊張も高まっていく状態です。 - 暴力を振るう状態
加害者のイライラがピークに達して怒りが爆発し、被害者に対して激しく暴力を振るいます。 - 謝罪や愛情表現をする状態
『ハネムーン期』と呼ばれるもので、DV加害者は暴力を振るった後、一転して被害者に対して過剰なくらいに優しく接します。「俺が悪かった」「もう二度としない」「俺はお前がいないとダメなんだ」と大げさに謝罪をし、優しく愛情表現をします。
しかし、またすぐにイライラが溜まりだし最初からを繰り返します。
被害者の依存
被害者は、精神的な緊張状態やひどい暴力を受けても、ハネムーン期に加害者から受ける優しさによって、加害者から離れることができないのです。
もともと好きな相手なので、「暴力を振るけど優しい人で、私を愛してくれている」と感じてしまい、好きであることが揺らがないのです。
そして『暴力を振るわれている間だけ我慢すればいい』とさえ考えてしまうのです。
暴力の恐怖と苦痛から急に優しくされることで、正常な判断ができなくなっていることも影響します。
そして、『自分が彼のことを支えてあげないといけない』『彼には私しかいない』『私が彼を立ち直らせる、そうしたら暴力もなくなる』考えて、そこに自分の価値を見出してしまうのです。
つまり被害者は、『私は彼のそばにいなければいけない』と思い込む依存状態になってしまうのです。
このように被害者も加害者もお互いがお互いに依存している状況が出来上がってしまいます。この状況が『共依存』と言われるものです。
『相手のために自分がいる必要がある』と、自分の存在価値を相手に見出していることが特徴で、自己評価が低い人ほど陥りやすくなります。
このようにDVの加害者と被害者は、お互い相手によりどころを求めているので別れたいと思わないのです。加害者は当然のこととして、被害者が加害者と別れようと思わないのもこういった心理が働いているからです。
被害者がDVから抜け出すには
ここまで説明したように、DVの被害者が暴力を受けながらも、加害者と別れようとしないのは、『共依存』が大きな要因であるケースが圧倒的に多いです。
『彼のために、私は一緒にいてあげないといけない』という思いは、自分の存在意義に結びついているので、なかなか捨てることはできません。
いくら家族や友人が「彼はひどい男だから別れた方がいい」と説得しても、『だからこそ、私がそばにいなくてはいけないんだ』逆に思い込みを強くすることすらあります。
加害者から逃げたことによる報復の恐怖や経済的なことの問題だけなら、シェルターに避難して新しい生活を始めることをしっかりと説明すれば、加害者と『別れる』と言う決断は比較的しやすいです。
しかし共依存に陥っている場合、自分の体が傷つくことよりも加害者への依存を選んでしまっているので、『別れる』という決断ができないのです。
この被害者をDVから抜け出させるには、『自分の体が傷つくこと』と『加害者への依存』を天秤にかけさせ、『自分の体』を自ら選ばせることが必要なのです。
しかし自らの依存を断ち切って別れる決断をするのは、本人にとって非常に辛いことです。
そして先ほども書いた通り、家族や友人などの近い間柄の人から説得だと逆に感情的になってしまい聞き入れないかもしれません。
ですので専門のカウンセラーなどが介入しないと、被害者に別れる決断をさせる事は難しいのが実情です。
一方で、加害者も被害者に強く依存しているので絶対に手放したくありません。
もはや愛情と呼べるものではなく、自分が支配している対象として失うことが耐えられません。
もし被害者がいなくなればそれこそ血眼になってでも探し出そうとします。居場所が分かれば執拗に追いかけていきます。
もし逃げた被害者が加害者に見つかってしまえば、状況がより悪化してしまいます。
これを避けるためにも、身内や知人の家に避難するのではなく、シェルターに逃げ込むなど万全の対策を立てることが最重要になります。
このようにDV対策は個人レベルで万全を期するのは難しいので、専門の機関等へ相談することが強く望まれます。
またDVと言うのは、恋人や夫婦といった閉じた関係の中で起きるので、他人の介入を排除する傾向があります。このため外部の人間が問題を把握ししにくく、介入も拒まれてしまいます。
これがDVを助長させてしまう要因の一つなのですが、かといって被害者本人が自ら相談に行くことは少ないのが現状です。
ですので、周囲の気づいた人が行政や専門機関、あるいは場合によっては警察に相談してあげることが被害を少しでも少なくすることにつながるのではないでしょうか。